キューアンドエー歯科医院

新潟県長岡市旭岡2-2

BLOG「内藤のこうかい診療室」

2026.10.6

歯から、時間と可能性を診る

虫歯にも、歯並びにも、治療した跡にも、そこに至るまでの時間があります。

そして、歯の向こうには、これから過ごしていく時間もあります。

その人が、これまでどう過ごしてきたのか。

今何に困っているのか。

これから、どんな時間を過ごしたいのか。

そんなことを考えているうちに、一つの仮説が生まれました。

歯科医師は、「人の時間を診る医師」なのではないか。

なぜ僕がそう考えるようになったのか。

振り返ってみるとその原点は、

15歳のときに亡くなった母の言葉にありました。

母は42歳。子宮がんでした。

死期を悟った母が残した言葉は、

「もっと家族と過ごしたかった」

でした。

この言葉は、今もずっと僕の中に残っています。

それまで当たり前だった日常が、病気によってガラリと変わりました。

だから病気を防ぎたい。

今度は自分が、誰かを支える側になりたい。

今から20年以上前、歯科医療がこれから、歯の治療だけでなく、

病気を防ぎ、健康を支えるためにもっと重要になると知りました。

だから僕は、歯科医師になりました。

当時の僕は、きっと「健康になること」そのものが目的だと思っていたのだと思います。

歯の向こうに、その人の人生がある

実際に患者さんと向き合うようになって、少しずつ違和感を持つようになりました。

歯だけを見ていても、その人を支えることはできない。

同じような状態の歯でも、患者さんによって望む治療は違います。

何を治すのかだけではなく、

何を大切にしているのか。

いつまでに、どうなりたいのか。

その先に、どんな人生を送りたいのか。

たとえば、同じように前歯が欠けていても、

「来月、娘の結婚式があるので、それまでにきれいにしたい」

という人と、

「急がなくていいので、できるだけこの歯を長く残したい」

という人では、同じ「前歯を治す」でも意味が違います。

もっと言うなら、その人が大切にしている「時間」が違います。

歯の向こう側には、その人の暮らしがあります。

仕事があり、家族がいて、楽しみにしていることがあり、不安に思っていることがある。そして、人によって「よかった」は違います。

医学的に正しい答えが、そのままその人にとっての「よかった」になるとは限りません。

だから僕は、正解を与えることより、その人の人生にとっての納得を一緒に探せる歯科医師でありたいと思うようになりました。

僕自身も、自分の人生が分からなくなった

そしてこれは、患者さんだけの話ではありませんでした。

僕自身も、仕事や家族、自分が本当にやりたいことの間で、

「どう生きればいいんだろう」

と悩んだ時期があります。

特に地元で歯科医院を開業してからは、思い描いていたようにはいかないことも多く、自分の人生を見失いそうになったこともありました。

人の人生を支える仕事をするはずが、自分自身がどう生きたいのか分からなくなる。

あの頃は本当に苦しくて、この状態がずっと続くように感じていました。

でも、その経験をしたからこそ、

どうすれば人は、「この人生でよかった」と思えるのだろう。

という問いは、誰かのためだけのものではなくなりました。

僕自身も、その答えを探している一人なんだと思います。

父親になって「可能性」を考えるようになった

そして父親になり、もう一つ大切にしたいものが見えてきました。

それが、可能性です。

子どもは、本当に一人ひとり違います。

得意なことも、苦手なことも、興味を持つことも、成長する速さも違う。

「普通」や「正解」という物差しだけでは、見えない可能性がたくさんあります。

その子が、その子らしく咲けること。

そしていつか、「この人生でよかった」と思えること。

そんな未来を支えられたらと思うようになりました。

「人生貯金」という考え方

健康。

家族との時間。

思い出。

挑戦。

経験。

自信。

人とのつながり。

今すぐ成果にはならなくても、未来の自分を支えてくれるものがあります。

僕はそれを、「人生貯金」と呼ぶようになりました。

人生貯金という物差しを持つことで、今まで見過ごしていた日常の価値に気づける。

そしてその一つひとつ積み重ねていくことが、いつか「この人生でよかった」につながるのではないか。

そう考えて、まずは自分の家庭で小さな実験を始めました。

子どもたちと、その日に増えた「人生貯金」を一緒に見つけてみる。

やっているうちに、一つのことを考えるようになりました。

これを、歯科医院でもできないだろうか。

歯科医院だから、長く関われる

歯科医院には、一つ大きな特徴があります。

子どもの頃から、その人の成長に長く関われることです。

歯を治すだけではなく、

食べること。

呼吸すること。

話すこと。

そして、健康を守る習慣を育てること。

それらを通して、その子がこれから自分らしく生きていくための「可能性の基盤」を育て、整え、守ることができるかもしれない。

家庭を中心に、医療、学校、保育園、習いごとなど、地域でその子を支える人たちともつながっていく。

子どもたちの成長を長く継続的に見守ることができる歯科医院は、その拠点になれるのではないか。

歯を治す場所から、「地域の健康文化の港」へ

そうなると歯科医院は、ただ歯を治す場所から、「地域の健康文化の港」のような存在になっていく。

港には、いろんな人がやってきます。

そこで少し休んだり、誰かと出会ったり、必要なものを受け取ったり、これからどこへ向かうのかを考えたりする。

そしてまた、それぞれの人生へ戻っていく。

僕は今、そんな歯科医院を思い描いています。

まだ、答えはありません。

だから患者さんとの会話、子どもとの時間、スタッフとの出来事、仕事や経営など、日常で起きることを観察して、

「なぜ、こうなるんだろう?」と考える。

その奥にあるものを探してみる。

そして、そこで見つけたことを、歯科だけでなく人生へつなげて考えてみる。

そんなことを繰り返しています。

可能性を削らない歯科医

考えているうちに、最近ようやく、自分が歯科医師として何を大切にしてきたのかも見えてきました。

できるだけ歯を残す。

神経を残す。

すぐに治療せず、経過を見る。

簡単に諦めず、その歯に残された可能性を探す。

そのためには、歯科医師として専門的な知識と技術を磨き続けることが欠かせません。

それも広く深く。

でも、僕が削りたくないのは、歯だけではありませんでした。

その人自身の可能性も、削りたくない。

だから最近、

「歯も、自分も、削らない。」

という言葉にたどり着きました。

でも振り返ってみると、この考えは突然生まれたものではありませんでした。

ずっと昔から、自分の中にあったものに、ようやく名前がついいただけなのかもしれません。

では、歯科医師は「歯」の医師なのか

もちろん、歯科医師は、歯を診る専門家です。

でも、歯だけを診ているわけではありません。

歯や口、顔に現れている「今」には、その人がこれまで生きてきた時間が積み重なっています。

むし歯にも、歯並びにも、噛み合わせにも、口の機能にも、そこに至るまでの時間があります。

僕たちは「今」を診ながら、「過去」を読み取っている。

そして同時に、

この歯をどう残すのか。

これから何を食べたいのか。

どんなふうに笑いたいのか。

この子がこれからどう育っていくのか。

その人の「これから」についても考えています。

過去を読み、今を診て、未来を考える。

そこには「時間」だけなく、「可能性」もあります。

そう考えると、歯科医師が診ているものは、歯より少し大きく見えてきます。

健康の先にあるもの

そもそも僕たちは何のために健康でいたいのでしょう。

健康寿命を延ばすこと。

それは単に、健康でいられる年数を増やすことではないと思います。

家族と食卓を囲む。

好きなものを食べる。

旅行へ行く。

仕事をする。

誰かと話す。

笑う。

やりたいことに挑戦する。

そんな、その人らしく過ごせる時間を延ばすことなのではないか。

QOL(生活の質)を高めることは、

その人が過ごす時間を、より豊かにすること。

予防することは、

未来の大切な時間を守ること。

子どもの成長を支えることは、

その子のこれからの時間に、可能性を増やすこと。

そして歯を残すことも、それ自体が最終目的ではないのかもしれません。

その歯で、

誰と食べるのか。

何を味わうのか。

誰と話すのか。

どんな顔で笑うのか。

歯の価値は、その歯によって生まれる時間の中にある。

そう考えると、歯科医療の使命も少し違って見えてきます。

歯科医療とは、人の大切な時間を守り、その先にある可能性を支える仕事なのかもしれません。

そして、母の言葉に戻ってきた

ここまで考えたとき、15歳のときに聞いた母の言葉に戻ってきました。

「もっと家族と過ごしたかった」

母が最後に欲しかったものは、健康そのものではなかったのかもしれません。

健康でいることで続いていくはずだった、

大切な人と過ごす時間だったのかもしれない。

15歳の僕は、その言葉を聞いて、病気を防ぎたいと思いました。

そして歯科医師になりました。

でも20年以上経って、ようやく少しだけ、その言葉の続きを考えられるようになった気がします。

健康は、何のためにあるのか。

歯は、何のために守るのか。

医療は、何のためにあるのか。

その先には、その人が大切にしたい「時間」がある。

だから僕は、歯や口の問題や不安によって、その大切な人生の時間をできるだけ奪われないようにしたい。

そして、その人の可能性を、できるだけ削らない歯科医師でありたい。

ここまできて、今の僕は歯科医師の仕事をこう考えています。

歯科医師は、歯から人の時間と可能性を診る仕事なのではないか。

まだ答えではありません。

だからこれから、自分の人生と日々の診療を材料に、時間をかけて確かめてみたいと思います。

患者さんとの会話。

子どもとの時間。

家族との出来事。

スタッフとの関係。

仕事や経営。

成功したこと。

失敗したこと。

全部、研究材料です。

そしてもう一つ、

人は、限りある時間をどう生きれば、

「この人生でよかった」と思えるのか。

その答えも探していきたい。

その途中で見つけたことを、これからここに残していきます。

いつか振り返ったとき、この記録そのものが、

「この人生でよかった」を探し続けた、一人の歯科医師の航海日誌

になっていたら。

そしていつか、子どもたちが大人になったとき、この記録そのものが、

父から子どもたちへ贈る「未来に咲く手紙」

にもなっていたら嬉しいです。

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